第7回 直感力


2・3年ほど前、羽生善治永世名人の

『直感力』(PHP新書)という本を興味深く読んだ。

趣味で友人と将棋を指したのは学生時分までで、

以来20年以上、盤に向かったことはない。

にもかかわらず、

将棋素人の私の心を今なおとらえて離さない考えかた、言葉が

数多く胸のなかで渦巻いている。

太極拳の訓えとも共通点があるので、

現在の私の関心を切り口に要点を記しておきたい。

立ち寄りたい問題は多くあるが、

紙面の都合上今回は「直感力」のワンテーマにしぼらせていただく。

羽生名人ご自身の珠玉の言葉を引用したいが、

長くなってしまうので、

僭越ながら要約してご紹介する。

将棋は、ひとつの場面で約80通りの可能性がある。

名人は直感によって二つないし三つの可能性にしぼりこむ。

残りの77、8の可能性は見た瞬間に捨ててしまう。

学生時代、テストの4択にも悩まされた身にとっては

大胆すぎるほどのしぼりこみで、

正しいものを瞬時に選び抜く能力、

言いかえれば、

玉石混交のなかで迷わない能力に驚嘆させられる。

コンピュータが、処理能力、記憶容量、計算速度を上げて、

性能を進化させていくのに対し、

羽生名人は、経験則に裏打ちされた「大局観」、

またコンピュータのようなロジックと創造的な感性、

これらのバランスのなかで

不要なものを瞬時に切り捨てる能力を高められた由。

勝負が真剣であればあるほど、

また時間が長くなればなるほど

その能力は省エネに効果絶大であるに違いない。

『老子』にこんな言葉がある。

「学を為す者は日に益し、

 道を為す者は日に損す。

 之を損し又た損し、

 以て無為に至る。

 無為にして而(しか)も為さざる無し。」

増やすのではなく減らすことが道にかなう由。

羽生さんの考えにも似ていますね。

最後に名人本人の言葉でしめくくりたい。

「何を選ぶかは、選ばなかったことに対してどれだけ多くの創造力を働かせることができるかによると思う。」

体を運用する上で不要なもの、無駄なものが多くある。

太極拳の練習をすればするほどそれに気づかされる。

ロジック・感性・創造力を働かせ、

それらを切り捨てる直観力を地道に身につけたい。


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