呉式は小さなステップの小架太極拳で、
縦に一足、横は肩幅が基本の立ち幅となる。
この小さなステップを土台に、前傾姿勢の大きな展開を行うところに呉式の難しさと素晴らしさがある。
私自身はじめて狭い足幅で前傾姿勢になったとき、すごい違和感と不安定感を感じた。
重力にひっぱられ、今にも倒れそうになる不安感、
それにあらがうためとっさに、また勝手に入れてしまった脚・腰・肩・胸・肘などの緊張はそれまでに経験したことのない感覚であった。
あの時の力み具合を今振り返ると、
全身を一つのネットワークで結ぶための柔らかさとバランス感覚が未熟であったことに思い当たる。
ひと言でいえば、前傾姿勢での「中定」が全くとれなかったのだ。
では、その「中定」をきれいにとるにはどうすればよいか。
各関節がゆるみ、ゆがみやかたよりをなくし、体の上・中・下、
つまり全身を柔らかく滑らかにつながなければならない。
姿勢に慣れるまでの過程で、骨盤・腰・背中・首などの大改革が必要になるが、
推進のかげの立役者は小さなステップ。
外面の動きを極力小さくして、内面の動きを大きくそして柔らかく作りかえていく。
それには小架のステップがとても効果的なのだ。
茶器の楽椀が不均整の均整を求めるように、小架太極拳は土台の不安定に全体としての安定すなわち「中定」を志向する。
小さなステップで土台の自由を奪い、その不自由の中から徐々に出来あがってくる中心および上半身の自由は太極拳ならではの身体感覚。単に柔らかいだけなく敏感度をともなった柔らかさである。これは推手において相手を知る、また相手の動きに対応するのに大きな力を発揮してくれる。
練習を重ねるほど、小架太極拳のデザインコンセプト
また太極拳と推手の連続性を感じること頻りである。