top of page
執筆者の写真呉式太極拳 順展会

第41回 いのちの力は根に在り


今年3月頃、胡蝶蘭をあがない窓際に置いて愛でていた。

楚々とした美しさに加え、鼻につく匂いのない胡蝶蘭は長期間の鑑賞につきづきしい。

わが家の蘭はミディと呼ぶのもはばかられる大変小ぶりなものであるが、

白い花びらの真んなかにほのかな紫の斑点をたたえる私好みの色目で、

可憐な美しさは3ヶ月以上にわたって変わることがなかった。

夏も近づく頃、花は一つ二つ、三々五々と散っていったが、

シンガリが落ちたあとも葉は青々としてみずみずしい。

花は散れども命の華やぎを失わない蘭に、その後も水やりを続けた。

夏もたけ秋の気配を感じる頃であろうか、

果たして土から茎が伸びはじめ、

今では写真のように思うさま命の拡張を進めている。

胡蝶蘭を越冬させるのは難しいと言われるが、

今の状態であれば開花が大いに期待できそうだ。

その時を楽しみに待ちたい。

「命の根を広げ、その力を高めること」、

これはあらゆる武道に共通の重要テーマではないだろうか。

それを少しずつ達成していくには外功だけでなく内功の世界へ入っていかなければならない。

植物の根が地上に露出せず、地下にもぐるように、人の命の根も外側よりも内側に内蔵されている。命にかかわる深刻な病気の多くが、外科ではなく内科のものであることでもこれはご納得いただけよう。

根を潤おし強くしていく上で、太極拳は実にバランスがよく完成度が高い。

陰陽の数が偏ることなくピッタリ合い、

五行のバランスが過不足なくととのっている。

人の体を外から眺めると微妙に左右非対称であることがわかるが、内部の構造はまったくもっての非対称、はなはだしいアシンメトリーである。

太極拳はそのような人体構造、また先天的に強い部分と弱い部分を知悉した上で、

乱れがちな全身のバランスを整え、先天的に強いところよりも弱いところをより多く補うように設計されている。太極起勢・終勢以外すべての動きが左右非対称であるのは、このような人体構造から導きだされてのことである。

骨盤のブレに注意し、真っ直ぐに前進・後退することが「火(心)」「水(腎)」の力を高め、

正確な左顧右眄が「木(肝)」「金(肺)」の能力を増す。

すべての姿勢において中定を保つことで「土(脾)」がととのう。「土」の要素は太極拳のあらゆる動きに含まれるが、これが内外の調和、また全体のバランスをつかさどるものであることに注目したい。

水だけ、日光だけ、土だけの単一要素では植物が育たないように、人の命の根は陰陽五行すべての調和によって強化され保全される。

陰陽五行の調和、これこそ命の根の力を長期間よき状態に保たしめる武道の恵みなのである。


閲覧数:96回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page