第58回 不安定の安定 〜 一羽を重しとするバランス 続編〜


「一般的な安定」と太極拳が追求する「不安定の安定」はどう違うか。

両者を対比して考えてみたい。

⬛︎ 一般的な安定

足うら全体を用いて立ち、足腰が安定している。

安定に方向性がある。

言葉の解像度をもう少し上げれば、

その安定は、ある方向には強くそれ以外の方向には脆い。

また、安定から次の安定へ変化するのに時間がかかる。

要するに止まりやすく固まりやすい。

体に「モノがある」状態なので、

相手につけ入る取っかかりを与えやすい。

「動きを止めること」を太極拳が「双重」とし戒めるのは、

安定によるこのような断点とスキを露呈しないため。

太極拳で動きのもっとも止まりやすいのはどこか?

それは、気持ちが安定し、姿勢が決まっているとき。

すなわち展開・収束が極まった定式の瞬間。

どこでも構わないが、たとえば「斜飛勢」「上歩七星」。

このとき安定により動きが止まってしまえば、

それは双重で反太極拳的な状態となる。

いかなる勢においても太極拳では動きが極まった瞬間に、次の展開・収束へと変化しなければならない。

一般的な安定とは異なる安定が求められる背景にはこのような事情がある。

⬛︎ 太極拳が追求する「不安定の安定」

重心の支点を極小化し、点に集約する。

要するにカカト一点で立つ。

外見上ぎこちなく見えるが、

不安定の安定のなかで内外の調和がとれている。

弓歩・虚歩・馬歩、いかなる姿勢においても中定が保たれている。

点を拡大すると球になるが、

球とは360度全方位に均整のとれた状態。

それゆえあらゆる方向の変化に遅滞なく対応できる。

体を支えるのに呉式が足うら全体の面ではなく、

カカト一点に加重するのは居つくことなく全方位に柔軟にスキなく立つため。

太極の上級者と推手をすると体感されることであるが、

体にモノが何もない状態はこのような練習の延長線上に現れてくる。

次回へとつづく。


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