第72回 養命


体に負担の少ない薬としてますます注目される漢方薬だが、

源流には『神農本草経』という書物がある。

中国最古の薬物書で、後漢初期の二世紀頃に成書。

薬の成分ではなく機能と効果を基準にしたこの本の薬のランキング(1位〜3位)がふるっていて、

古代の人体・薬物観が集約されていて興味深い。

− 養命 −

上から上薬、中薬、下薬のランクとなるが、

上薬は君主の立場で「養命」の薬。

毒性がないので、多めあるいは長期間服用しても体に害がない。

健康増進、不老延年の助けとなる。

気になる言葉を短く引用すると、

「寒暑に耐え、飢渇せず」

「智を増し、忘れず、身を軽くし老に耐える」

「顔色を好くし、潤沢あり」

現代語に意訳すればこんなところか。

「暑さ寒さからもダメージを受けない生命力の強い体」

「加齢にもかかわらず、知力・判断力・記憶力、そして体力が存分に働く若々しさ」

「血行・血色のよいみずみずしい肌」

加齢とともに現代人が直面する本質的かつ解決困難な課題を先取りするような考えが並ぶが、

我われが薬に対してもつイメージとは随分とかけ離れる。

ともかく、古代人は体の故障を修理することよりも体の可能性を広げること(それが体の故障を予防する)にもっとも強い関心をもっていて、

その身体観を軸に漢方薬というものが枝分かれ、発展してきたようだ。

こう思うと、「不老長寿」という言葉も腑に落ちる。

− 養性 −

第2位の中薬は臣下の薬。

「養性」をつかさどる。

ときに無毒、ときには有毒にもなる。

病気を予防し、虚弱を補うが、使いかたを間違えると危険なので要注意。

− 治病 −

3位は佐薬(召使いの薬)で、「治病」をつかさどる。

病気を治す治療薬を古代人が最下位に位置づけていたことに現代人への警鐘が鳴る。