第75回 内観力


普段耳に親しんでいる自分の声、

何も介さず体内で直接聴いているものと録音されたもののあまりの違いに驚かれた経験はないだろうか。

前者は骨伝導、後者は空気伝導で音が伝わっていて、伝達システムの違いが音の聞こえ方に大きく作用している。

録音された声がどこかよそよそしく、自分の声でないように聞こえるのも、

首の骨が偶然ボキボキなったとき自分には大きく聞こえ、周りの人には小さな音でしか聞こえないのも、原因は同じらしい。

今回はこのような「内・外のズレ」に注目してみたい。

繰り返し練習する型においても往々にしてズレは起こる。

たとえば、正面に正対しているつもりが膝・骨盤・肩の一部が斜めにズレていたり、

骨盤の前進(例:摟膝拗歩)後退(例:手揮琵琶)が十分であるつもりが中途半端であったり、

内なる感覚(内観)と外なる動きが一致せず、ズレることがある。

ズレは習慣化すると、間違った形のスタンダードが定着してしまうため(なかなか修正できない)、一刻も早く対策をほどこしたいところであるが、自分で自分のズレに気づくのは容易でないのが悩ましい。

そんなズレへの気づきと修正には

 ・先生の指摘に耳をかたむける

 ・自分の動きをたまに動画でチェックしてみる

 ・内なる感覚と外なる視点の両方を兼備する内観力を育てる

などのアプローチをしたい。

最初の2つは客観的な外の視点。

特に先生の指摘は今の自分にとって最も修正が必要な箇所を教えてくれるはず。

謙虚に受けとめ、自分の意識と身体で徹底的に検証することが気づき・修正へのもっとも確かな一歩となる。

3つ目は外の視点を兼備する内観力。

「感じるまま」と「見えるまま」が一致する内観力を身につけるには、

ズレに対する敏感度を高めることが鍵となる。

ズレを違和感として感じられるようになれば、気づきから修正へと自然に進むことができる。

太極修練は無限の修正の連続であると師父はよく話してくれるが、

ズレに対する敏感度は丁寧な反復練習によって、

どこまでも繊細に、どこまでも全体的に磨かれていく。

型の存在意義の一つはここにあるのではないだろうか。


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