第5回 能の陰陽バランス観 - 太極拳に共通する考え(1)


室町時代に

観阿弥(1333年~84年)

世阿弥(推定 1363~1443年)

父子により大成された能は、

当時のものが脈々と受け継がれ、

現在もなお昔とほとんど変わらない形で上演されている。

江戸時代の編集を経て

原形そのものでないとはいえ、

台本、所作など室町時代当時にかなり近いものが

今も舞台にかけられ、

愛好されているのは驚異的である。

古典太極拳同様、

その生命力のたくましさ、不変性に感嘆せざるをえない。

「初心忘るべからず」

「秘すれば花」

世阿弥の残した言葉は

今なお心に深く刻まれる鋭いものが多いが、

今日は春分の稿に続き、

能の陰陽バランス観に少し分け入ってみたい。

太極拳の考え方との共通点が興味深い。

「一切は陰・陽の和する所の堺を、成就とは知るべし」

今日とり挙げたいのは『風姿花伝』のこの言葉。

これに続くくだりをたどってみるが、

すべて古語だと古色蒼然として重々しいので、

ここらからは現代語に要約してご紹介する。

昼の気は陽気。

その時分にしとやかな能を演ずるこころは陰気。

陽気の時に陰気を生じさせるのは、

陰陽和するこころである。

反対に陰の夜には、

うきうきとした人のこころを花めかせる能をするのがよい。

夜の陰に陽気を調和させるのである。

陽の気に陽、

陰の気に陰をとり合わせれば、

調和もなく成就もない。

成就がなければ面白い能となろうはずがない。

これらの寸言から

能における陰陽調和の大切さがひしひしと伝わってくる。

つづく


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