第6回 能の陰陽バランス観 - 太極拳に共通する考え(2)-


前稿では「風姿花伝」の陰陽観に触れた。

はるか600年ほど前のバランス感覚である。

今回はその感覚が現代の能舞台で

どのように継承され、活かされているかに焦点を合わせ、

後半で太極拳に回帰したい。

【能のなかの陰陽】

能に用いられる代表的な楽器に

大鼓(おおつづみ)と小鼓(こつづみ)がある。

大鼓は「カーン」という乾いた陽の音、

小鼓は「ポン」という湿った陰の音を発し、

両者が一対になって舞台に響く。

面(おもて)を少し上向けることを「テラス」といい、

陽の感情を、

うつ向くことを「クモラス」といい、

陰の感情を表現する。

表情のないことで有名な能面であるが、

「テラス」「クモラス」の小さな陰陽変化からは、

大きな感情の起伏が見るものに豊かに伝わって来る。

【演劇構造】複式夢幻能

能では前場・後場の二部構成になっていることが多く、

前場では、シテが仮の姿で現れ、

老人・女性・男性など土地の者として

通りがかりの人(ワキ)と問答を交わす。

シテは土地の歴史・縁起を語ったあと、

今は仮の姿で、

本当の自分が何ものであるかをほのめかし、

幕の向こうへ姿を消す。

前場終了。

後場では、真の姿で現れ、舞台は次第に最高潮へ向かう。

仮から真の姿、陰から陽、隠から顕への見事な転身は

能最大の魅力の一つである。

終演後盛大な拍手がほとんど行われないのは、