第12回 背中には陽の開きと働きを


目が口ほどにものを言うように、

背中には雄弁な表情がある。

気持ちが落ちこむと、

背中はどこか寂しげで、小さく見える。

反対に気力が充実していると、

大きく誇らしげである。

背中はこころとからだの内面を映す外に向いた鏡なのだ。

心身を鼓舞させたいとき、

一般的にはよく「胸を張れ」と言うが、

私としては「背中を開け」と言いたい。

以下その理由。

通常我々は胸側を前、背中側を後ろととらえ、生活している。

目は胸と同じ方を向いており、

外部情報のほとんどが目から入力されるので、

それは当然の感覚と言える。

実際、五感に占める視覚の割合は87%と圧倒的で、

続いて聴覚(7%)、触覚(3%)、嗅覚(2%)、味覚(1%)となるそうだ。

ところが、上半身を前後でなく陰陽で見ると事情は異なってくる。

すなわち、中医学では背中を陽、胸側を陰と位置づけるのだ。

上半身の主要なエネルギーは背中の中央を通って上り(督脈)

胸側の中央を通って下る(任脈)。

上りが陽、下りが陰の気の流れとなる。

よくない姿勢で腰椎や胸椎を圧迫すると、

エネルギーの流れは停滞する。

腰痛、肩こりなど現代人が悩む慢性的な問題の多くは背中側に集中するが、

それは誤った使い方により背中が陽の役割を果たしていないことに起因する場合も多い。

顕著な例は、

胸を張り背中を後ろに反らすこと。

それでは腰椎・胸椎・頚椎が圧迫され流れがつまってしまう。

背中は閉じないで、開くのがいい。

自然界を眺めると使い方の好例はあちこちにある。

動物は四つ足で歩くにもかかわらず、

背骨は地面の方へ湾曲せず、

むしろ重力に逆らい天の方へゆるやかなカーブを描いている。

陽の働きが活発な証であろう。

熊、虎など特に発達した背中をもつ猛獣は、

形、大きさ、しなやかさなど陽としての要素が十全に備わり、

背中が巧みに動く。

壊れにくく丈夫な背中は健康だけでなく、

出力=力を発することにおいても大切な役割をになうことがわかる。

呉式太極拳の特徴と言えば前傾姿勢が真っ先に思い浮かぶが、

これは「開」の状態、

反対に体を起こし直立するときは「合」となる。

「開」では重力に身を任せると同時に背中を伸ばしきれいな中定を保つ。

それができれば、

腰・背中・首は存分に開かれ、エネルギーは滔々と流れ、導かれる。

「合」のときはすべてのエネルギーを自らのなかに静かに収め、

また次なる「開」へとなめらかにつなげていく。

「一開一合=一太極」と言われるゆえんはここにあり、

これが途切れることなく、

はじめから終わりまで連綿とつながったものが太極拳の型である。

他の分野をつまびらかにしないため、

背中を活発にするうえで、

太極拳がベストアンサーであると豪語はできないが、

Good アンサーの1つであることは間違いないと思う。

ゆっくりゆったりと動きながら重力と体を親和させることも

無理なくしかも正確に背中を開く呉式太極拳ならではの特徴である。

套路を終えたとき師の背中を眺めると、

大きくふくらんでいるように見える。

その大きな背中を追う日々がつづく。

充実の心身と毎日だ。


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