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第47回 末永く使うならば (後編)


「速い球を投げることと肩・ヒジのリスクは表裏一体」

と元メジャースカウト 小島氏は言う。

将来を嘱望される選手に求められるのは

「高パフォーマンス」と「低故障リスク」の両立。

ピッチャーで言えば、

最速スピート記録以上に安定した活躍、

つまり長いキャリアこそもっとも望まる資質なのだ。

その資質を育てるためのメジャーの思想と取り組みに分け入り、

メジャーの目で見た大谷投手の今のリスクに迫ってみる。

選手サポートの基本思想は、「時間をかけた計画的な育成」。

新人ピッチャーのボールがどんなにすごいものであっても、

体を作らなければならない時期にメジャーの試合で投げさせられることはない。

イニング数、球数、マイナーでの実戦経験などすべてが計画的に管理され、

長期活躍に耐えうる故障しにくい体とフォームを段階的につくっていく。

名選手の条件である「30歳以降の野球人生を長くする」のにこれは欠かせない。

若いころの体づくり、また荒削りなままでの実戦回避は

すべて長いキャリア実現のためであることを肝に銘じておきたい。

このような育成期間を経ることなくローテーションに入り、球を投げ続ける大谷選手の今はどのような状態であろうか。

小島氏の目には、未熟・未完成の体にムチ打っている過酷な状態に見えるそうだ。

22歳現在の身体感覚ではピンと来ないかもしれないが、

25歳からの10年間、あるいは15年間、メジャーのローテーションの中心で活躍するには、

キャリアの中盤あたりから伸びていくのが望ましい。

今のままでは大谷選手がその軌道に乗ることが難しく、

30歳になってメジャーのローテーションの中核にいるイメージが作れないと言う。

不安要素は大きく3つある。

その1

野手のような体つきになっている。

二刀流でバッターとしても活躍しているため筋肉のハリがピッチャーのそれから遠ざかり、上半身が重たくなっている。

上半身に必要以上に筋肉がつくと、

柔らかさ、しなやかさが失われ、ピッチャーらしいキレイな投げかたができなくなる。

その2

テイクバック問題。

高校1年のときは、ボールを持った右腕が柔らかく、ゆっくりとしなやかに上がっていた。

大谷は人の真似しえない天性の柔らかさを備えていたのに、

残念ながら今はそれが失われ、ロボットのような角ばった動きになってしまっている。

たぐいまれな柔軟性に助けられ、今のところ故障には至っていないが、

明らかに筋力依存の硬い投げかたになっている。

下半身と上半身が連動せず、下半身が早く動き上半身の動きが遅れるため、

結果として上半身の筋力に依存しすぎてしまっている。

その3

ピッチャーとしての答えを出すのに、上半身の力に頼り過ぎている。

上の次第なので、彼はコントロールがよくない。

ストレート、変化球、いずれも強いボールだから目立たないが、

大谷はとんでもないワンバンを投げたりする。

また軽くストライクをとりに行くことができない。

これはコントロールによる省エネピッチングができないことに他ならず、

打たれないためには全力に近い状態で投げ続けなければならないことを意味する。

この投げかたでは、体への負担は1試合でも相当なものであろうが、

長いキャリアを通じての負担の蓄積は想像を絶するものになる。

「体づくり」

「フォーム」

「コントロール」

この3つのポイントは、すべて同じところに根っこがある。

若いころ結果を求め過ぎず、ポテンシャルを伸ばすことに主眼を置き取り組むことによって、

パフォーマンスのポテンシャルだけでなく、

長期活躍するためのポテンシャルも最大限に伸びる。

大谷選手はまだ若い。そして天性の才能と柔らかさを持っている。

これまでの取り組みの小さなズレをこれから修正し、

歴史に残る選手に成長すべく末永いキャリアを期待したい。

今回書いたことは野球だけでなく、他のスポーツまたあらゆる武道にも通じる普遍の哲理ではないだろうか。

「体の故障リスク回避」

「穏やかな成長」

「好調の長期維持」

これらすべてのポテンシャルを伸ばすうえで、

伝統太極拳は優れたものの一つであると思う。

特別な体格や特殊な運動能力に関係なく誰でもはじめられ、

しかも穏やかな結果を出し続けてくれる。

そのことを練習による体の変化で実感する。

誰にでも親しみやすく、しかも長期間穏やかな成長を感じさせてくる太極拳のユニバーサル・デザイン、また普遍的効果に驚かされる。


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