第63回 弱さの受容


まず、伝統太極拳(ゆっくり動く太極拳を対象)二つの「Why ?」について。

Q1)目をみはるような華麗・派手な動きがないのはなぜ?

A1)見た目の華麗さ・派手さは弱点を大きく露呈しまうから

Q2)緩急・強弱の変化をつけることなく淡々と均一に動くのはなぜ?

A2)体の状態にムラがあるのも一種の弱点だから

今回は上の「Q&A」の奥にある太極的な考えついての管見を簡単に。

「人間共通の弱点とは何か?」

「その弱点を小さく目立たなくするにはどうすべきか?」

太極拳はこの二点を徹底的に追求し、型の姿勢・動きのなかで答えを出している。

なんぴとにも共通する弱点とは、

◯ 同じスピードでゆっくり動く(加速・減速しない)

◯ 常に柔らかさを保つ(力まない)

◯ 重心の高さを変えない(例外あり)

◯ 中定を保つ(歪まない・かたよらない)

◯ 全身を協調させる

などが主に挙げられる。

どれも当たり前に思われる要領であるが、実際に守るのは難しい。

呉式太極拳での具体例を1つ挙げよう。

たとえば「摟膝拗歩」。

他とは異なり呉式では肘のポジションに一切の遊び、妥協がない。

前方に伸びる腕はできるだけ遠くへ、かつ肘は垂れ下がる。

下方の腕も伸ばし、かつ肘は体側を離れず体に接する。

また肘は横にふくれてはならず、後ろに向ける。

このような姿勢で「鬆肩垂肘(しょうけんすいちゅう)」を守るのは容易ではない。

なぜか?

我われが共通に不得手・苦手とする「弱さ」に入る動きだからである。

この姿勢で膝、骨盤、肩、首がズレたり歪んだりしやすいのは体が無意識のうちに要求の厳しさを緩和しようとするから。

派手ではないが地味な動きのなかにひそむ伝統太極拳の厳しさ、難しさはこういったところにさりげなく散りばめられている。

型の練習をするたびに、人体が本来共通に持つ弱さを知り、受け容れ、修正を重ねる。

この意味で太極拳は「弱点アラーム」であると同時に「弱点修正プログラム」でもある。

「わたしの弱点」は「みんなの弱点」。

太極拳の練習を通して「弱点を知り受け容れる」ことと「相手の弱点に入っていく」ことの表裏一体を理解、体得できれば、

「体としての太極拳」と「用としての推手」がシンクロする。

シンクロの発端は、人として普遍・不変の弱さに集約される。


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