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第68回 太極的レスキュー 後編


− レスキューは事前にはじまっていた −

痴漢行為へ厳しい目が向けられる昨今、

冤罪がこわい男性乗客は酔った女性に救いの手を差し伸べにくいと判断。

もし女性に何かあれば「私が助ける」と会員さんは即断即決。

その瞬間、その場の「主人公」になっていた。

小説や映画でよく使われるこの言葉、実は禅に由来。

中国の瑞巌和尚(ずいがんおしょう)という人が、

座禅する自分に向かって、

「主人公よ、はっきりと目覚めているか」

「はい、目覚めています」

という一風変わった一人問答をしていたことから名づけられた由。

自分自身の主体性、人間性が確立され、いかなることにも動じない意味だそうだが、

「one of them」、大勢のなかの一人という状況で「主人公」たるのは難しい。

「誰かが助けてくれる」という想いが少しでも頭をよぎったら、

事態と自分のあいだに埋めがたい距離が生まれ、

反応が遅れたか、間に合っても支える力が及ばなかったことであろう。

見事な緊急対応が成ったのは、ひとえに女性会員さんの「私が助ける」という迅速な意思決定と主人公としての不動心のおかげであった。

− 酔った人の体は重い −

熟睡している人や赤ちゃんの体がズッシリと重いのは、

全身の関節が意識の制御を離れ、脱力してゆるみきっているから。

関節の力が抜け重力が一方向だけに働くと、

つまり関節に抵抗がなくなると人の体は驚くほど重くなる。

重さのカタマリになって後ろ向きに倒れてきたときの人の負荷はすさまじい。

その状況に対し、過剰に反応することなく、

柔らかく、ちょうどいい加減の反応できたのはすごい!

− 支えたのは協調する形と柔らかさ −

「玉女穿梭」の形は、足・膝・骨盤・腰・背中・肩・肘・手を柔らかく統合し、前進する姿勢。

内にバネのような弾力を秘め、しかもすぐれた柔軟性と安定感がある。

意識のない重い人を支えるにはうってつけであるが、

とっさの状況で最良のこの一手が選択されたのは、

返す返すも迷いのない決断の速さがあったからであろう。

− 乱れに対する敏感度 −

太極拳練習の基本は、調和への自己組織化。

内には、心身の調和、

外には、相手を含め外部環境調和の方向へ動的な平衡感覚を行きわたらせる。

このため小さな異常・違和感に対して敏感になり、

全体のバランスをととのえる反応が自然に働くようになる。

少なくともそういった感覚が少しずつ研ぎ澄まされいく。

今回の女性会員さんの体験はそんな太極的感覚の半径が内部から外部へ広がった

興味深い、意味深なエピソードであった。

2回にわたり丁寧にご紹介させていただいたのは、このような次第。


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